「実績を載せたほうがいいのは分かっている。でも取引先の名前は出せない」——中小企業のサイト制作で最も多く聞く悩みです。守秘義務があったり、掲載許可を取る手間を考えると止まってしまう。結果として実績ページ自体が存在しない、という状態になりがちです。今回は、社名を出さずに説得力を保つ方法を中心に整理します。
実績ページは何のためにあるのか
まず前提として、読み手が実績ページで確認したいのは「有名企業と取引しているか」ではありません。
- 自社と似た規模・業種の相手を扱った経験があるか
- どんな課題に、どう対応したのか
- その結果どうなったのか
つまり知りたいのは固有名詞ではなく、再現性です。ここを取り違えると、「社名が出せないから載せられない」という結論になってしまいます。
読み手が見ているのは、どこと取引したかではない。自分と同じ問題を解いたことがあるかどうかである。
社名を出さずに書く4つの型
1. 業種+規模で置き換える
最も使いやすい方法です。
- ×「A社様」
- ○「従業員50名規模の金属加工業(〇〇県)」
業種・規模・地域の3点があれば、読み手は自社と重ねて読めます。社名より、この3点のほうが判断材料として機能します。
2. 課題ベースで書く
「誰の案件か」ではなく「何を解いたか」を主語にする書き方です。「求人を出しても応募が来ない」「見積もり依頼だけ増えて受注に至らない」といった課題から入ると、同じ悩みを持つ読者に直接届きます。
3. 数字だけを抜き出す
具体的な案件として書けない場合でも、集計値なら出せることがあります。「年間の対応件数」「継続年数の平均」「対応業種の内訳」など、個別案件を特定しない形の数字は掲載しやすく、規模感を伝えられます。
4. 自社サイトを実績として使う
意外と見落とされますが、自社サイトそのものが制作物です。どう設計し、何を意図したかを説明できれば、それは立派な事例になります。
掲載許可は、取れることも多い
「出せない」と決めつける前に、確認してみる価値はあります。実際には次のような段階があります。
| 掲載レベル | 許可の取りやすさ |
|---|---|
| 社名・ロゴ・写真すべて | 取りにくい |
| 社名のみ(ロゴなし) | 相手による |
| 業種・規模・地域のみ | ほぼ問題にならない |
| 数字だけの集計 | 許可不要なことが多い |
依頼の仕方にもコツがあります。納品直後、相手の満足度が最も高いタイミングで、掲載する文面をこちらで作って見せること。「実績に載せてよいですか」と白紙で聞くより、完成形を提示したほうが承諾されます。
なお、契約書に守秘義務条項がある場合は必ず確認してください。口頭の了承だけで社名を掲載するのは、後々のトラブルの原因になります。
依頼のタイミングと文面
掲載許可を得るなら、納品から1週間以内が最も通りやすい時期です。時間が経つほど担当者の記憶は薄れ、社内確認の手間だけが残ります。
文面は短く、判断しやすい形にします。「掲載可否」「社名を出すか業種表記にするか」「修正したい箇所」の3点だけを聞き、こちらが用意した掲載文案を添えます。相手は読んで返事するだけで済むため、承諾率が明らかに変わります。
1件しかない場合はどう書くか
創業間もない場合、実績が1〜2件ということもあります。この場合は件数を隠さず、1件を深く書くほうが効果的です。
- どんな相談から始まったか
- 何を検討し、何を採用しなかったか
- 実際に行った作業の内容
- 結果と、その後どうなったか
件数が少ないことより、中身が薄いことのほうが不利です。1件を丁寧に書けば、思考の筋道が伝わります。
数字は「盛らない」ほうが効く
実績ページで最も信用を落とすのは、根拠の曖昧な数字です。
- ×「売上が3倍に」→ 何が3倍なのか、期間はいつか不明
- ○「問い合わせ件数が月8件から月21件へ(公開後3か月時点)」
比較対象と期間を添えるだけで、同じ数字が検証可能な情報に変わります。効果を断定できない場合は、施策内容だけ書いて数字を書かないという選択も正しい判断です。景品表示法の観点からも、裏付けのない効果の断定は避けるべきです。
構成の型
1件あたりの分量は、400〜800字程度で十分です。
- 相手の属性(業種・規模・地域)
- 相談時の状況と課題
- 検討した内容と、実際に行ったこと
- 結果(数字または変化)
- 期間と担当範囲
この5つを同じ順序で並べると、複数の事例を横断して読みやすくなります。フォーマットを揃えること自体が、仕事の整理能力の証明にもなります。
写真をどう用意するか
事例ページの写真は、あるかないかで印象が大きく変わります。とはいえ、現場写真に社名や個人が写り込むと掲載できません。
現実的な対処は次のとおりです。
- 引きの構図で撮る:設備や作業風景を、特定できない距離から撮影する
- 手元だけを写す:作業内容は伝わるが、人物は特定されない
- 成果物の一部を切り出す:Webサイトなら、社名の入らない画面の一部分
- 加工して隠す:看板や書類はぼかしではなく、単色の四角で確実に隠す
ぼかし処理は復元される可能性があるため、隠すなら塗りつぶしが確実です。写真がどうしても用意できない場合は、無理に素材写真を使うより、文章だけで構成したほうが誠実に見えます。
並び順と更新の考え方
事例が増えてきたら、並び順を新着順のままにしないことをおすすめします。読み手は上から3件程度しか見ないため、最も見せたい業種の事例を上に置くほうが機能します。
更新頻度は月1件でも十分です。むしろ重要なのは、古い事例を消さないこと。3年前の事例でも、同じ業種の読み手には判断材料になります。ただし、提供を終了したサービスの事例には、その旨を一行添えておきます。
BtoCの場合は「声」が効く
一般消費者が相手の場合、企業向けとは効く材料が変わります。法人相手では体制や実績数が効きますが、消費者相手では同じ立場の人の言葉が効きます。
- お客様の声を、原文に近い形で掲載する(整えすぎない)
- 年代・地域・利用のきっかけを添える
- 良い評価だけでなく、迷った点や気になった点も載せる
完璧な絶賛だけが並んでいるページは、かえって作り物に見えます。迷いや不満が少し混ざっているほうが、全体の信頼度は上がります。
実績ページを活かす置き場所
作っただけで終わらせないために、他のページから導線を引きます。
- サービスページの各項目から、該当する事例へリンクする
- 会社概要の「主な取引実績」からリンクする
- 商談資料に事例ページのURLを載せ、帰社後に読んでもらう
特に3つ目は効果が大きく、その場で説明しきれなかった部分を、担当者が社内説明に使ってくれます。
まとめ
実績ページは、社名が出せなくても作れます。業種と規模で置き換え、課題を主語にし、検証できる数字だけを書く。この3点を守れば、匿名のままでも十分に信頼を生みます。
サイト全体で信頼性をどう積み上げるかは中小企業の信頼性を上げるコツで扱っています。事例の構成や書き起こしのご相談はお問い合わせより承ります。当スタジオの事例は実績ページに掲載しています。